「認知」「決断」「実行」。これらが必要な場面は私達の日常の生活のなかでどれほどあるでしょうか。料理をしているときも、買い物をしているときも、自動車を運転するときも、判断に必要な情報を収集し、それらをもとに「どの手順で料理をつくるのか」「どの商品を買うのか」「ブレーキを踏むのか踏まないのか」等々、取捨選択をしながら最終的に行動に移します。日常のある部分を切り取っても、私達の生活は「認知」「決断」「実行」で溢れていることが分かりますよね。
さて、フットサルのゲームではこの「認知」「決断」「実行」の能力が求められると言われています。先日の「ユースフットサル選抜トーナメント全国大会2015」を制した愛知県選抜U-18の高橋優介監督(名古屋オーシャンズU-18監督)は、「育成年代の指導で重んじているのは、いかに『認知』『決断』『実行』を養うかだ」と話していました。極論をいえば、足元の技術は自主トレを重ねれば一人でも巧くなるし、その技術が高い選手は世界中にたくさんいます。ですが、そこに「認知」「決断」「実行」が伴わなければ「宝の持ち腐れ」になってしまうのです。セレクションなしで集まった名古屋オーシャンズU-18の選手達は技術的に相手を圧倒したというよりは、個人として、あるいはチームとしての最大の強みを活かすための「認知」「決断」「実行」に長けていました。
フットサルは、サッカーに比べて狭い空間のなかでプレーをしなくてはならず、サッカーより約6倍もボールに触れる時間が長いというデータも出ています。6倍もボールに触れる時間が長いということは、「オン・ザ・ボール」「オフ・ザ・ボール」において「どうボールをキープするのか」「どう上手くパスを受け取るのか」、必要な情報を収集して「認知」し、数ある選択肢から「決断」して「実行」に移す、この一連の動作が必要になる場面も6倍になると言えるのではないでしょうか。
また、フットサルで「認知」「決断」「実行」が求められるのは、ボールに密接に関わる場面に限られません。高橋監督は全国大会の決勝戦のチームの様子をこう話していました。
「試合前は、前半の立ち上がりからアグレッシブに前線からプレスをかけようと指示していました。ですが、始まってみると自陣のコートに引いた消極的な立ち上がり。ベンチに戻ってきた選手に話を聞いてみたら、選手は『すみません、相手が立ち上がりから仕掛けきて、こっちも疲れがあったので安全に試合に入りました』と答えました」
つまり、名古屋オーシャンズU-18の選手たちが中心の愛知県選抜U-18は、自らでチームや相手の状況を「認知」して、安全に試合に入るという「決断」をし、チームとして「実行」したのです。彼らは、チームの戦術的な攻撃、守備においても相手や自チームの状況に応じて、取捨選択できる「臨機応変さ」を兼ね備えていたのです。日本のフットサル界、あるいはフットボール界では、誰かを頼るのではなく勝つために最も効果的な選択をすることをチームレベルで実践できるチームは未だに数少ないと思います。
フットボールというスポーツは、相手・味方の状況、審判、設備環境などあらゆる要因によって左右されます。とりわけ、狭い空間で行われるフットサルは、相手・味方の状況、審判、設備環境などの微妙な「ズレ」によって点を奪い・奪われ、それによって勝敗が決まることもあります。その微妙なズレを敏感に「認知」し、そのうえで「決断」して臨機応変に「実行」できるのか、ここにフットサルの本質は潜んでおり、これこそが育成年代のフットサルで最重要視する点ではないでしょうか。
そしてまた、「認知」「決断」「実行」はフットサル以外の生活でも非常に求められる力です。NPOカタリバ理事、株式会社BOLBOP代表取締役の酒井稜氏は『あたらしい戦略の教科書』で、ビジネスにおける戦略家をベテランドライバーにたとえてこう言っています。
―ベテランドライバーは、ある状況下においては、どのような情報を入手しなければならないのかについて経験的に知っています。そのため、周囲の状況は必要最低限に把握しつつ、予想外の事態にも反応できるだけの余裕を持っています。(中略)ビジネスでの戦略の実務においても同じことです―
最終的にビジネスでもフットサルでも「実行」の逆算から、「決断」するためにどのような情報・状況の「認知」が必要なのか、これを普段から考えて経験的に出来る人ほど優れた成果を得やすいのではないかと思います。
「認知」「決断」「実行」を鍛えることはフットサルで勝つために必要な能力であり、生きていく上でも役立つことなのではないでしょうか。
futsal R 高島正暉