準決勝に向けて作陽の選手たちがピッチ脇でアップをしている中、観客席にいる3人の高校生に声をかけた。今大会でベンチ外となった作陽の3年生の選手たちだ。彼らは、カメラを持つ私にこんなお願いをしてきた。「今日は6番を撮ってもらえませんか。6番の選手はずっと怪我をしていたんですど、やっと試合に出られるようになって頑張っているんです」。私はその時、作陽というチームの強さの秘密が一つ分かった気がした。ベンチ外になった選手が出場選手のそれまでの苦しみを共有し、心から活躍を祈る。出場選手は、チームのために撮影やTwitter速報をしてくれる控え選手たちに感謝し、全員で歌舞伎ポーズをきめながら喜びを分かち合う。私が見た『岡山県作陽高等学校』は、プレーだけでなく、チームワーク、個々の意識、振る舞い、全てがチャンピオンにふさわしいチームだった。貪欲な探求心と情熱を持ってこの素晴らしいチームを作り上げた三好達也監督、そして決勝戦で終了間際にゴールを決め、優勝に大きく貢献した11番 眞中佑斗選手にお話を伺った。
岡山県作陽高等学校 三好達也監督
―優勝おめでとうございます。まず、今の気持ちをお聞かせ下さい。
フットサルを全然知らないところから指導者と名乗って大会に出て、結局、前回大会では名古屋オーシャンズさんに負け、「俺は何をやっているんだろう?何がフットサルの指導者だ」というところから始まって、1年間「見返してやろう」という気持ちで準備していきました。この大会に向けて、昨年度同様3年生だけでチームを作ったんですが、今年は15人が希望してくれました。ここまで来られたのは、その選手たちの頑張りだと思います。
―早い段階から準備されてこの大会を目指して来られたかと思いますが、実際にはどういう準備、練習をされたのでしょうか?
作陽のサッカーはフットサル的な要素を全く参考にしていない状態で、たまたま全く同じような形が出来ていたんです。普段のうちのサッカー部の練習で3-1というのがベースとしてあるんですが、その動き方がフットサルと完全に一緒で、そのままブロックとかステップをちょっと変えるだけでフットサルに応用できるものがたくさんあるんです。なので、フットサルも他のフットサルチームのまねではなく作陽のオリジナルで、作陽のサッカーに絡ませる形でやっていくとフットサル的な動きがどんどんできるようになってきたということです。
―作陽のサッカーに絡ませる形でやってこられたとのことですが、他にフットサルを指導する上で監督がされてきたことはありますか?
Fリーグが公式サイトで観ることが出来るので、それを半年間で100試合くらい観ました。それで、他の人の意見ではなく、僕自身が有効だなと思うものをどんどんメモで取り出して、1週間はその動きばっかり練習するとそれが出来るようになって、また次の1週間は違うことをやるとそれが出来るようになる。その積み重ねです。
―初戦と決勝戦では全く違うチームに見えましたが。
正直、初戦のクラーク戦は一番きつかったですね。クラークさんは僕らにフットサルを教えてくれた一番の先生だと思っていて、今年もう4回目の対戦だったんです。なので、互いに特徴を知っていて、一番やりにくい相手ということで引き分けに終わりました。他のチームは僕らの事をあまり知らなくいというかノーマークだったのでやりやすかったです。大会中はコーチが頑張ってスカウティングしてくれたので、牛タンを食べずに毎晩パソコンと睨み合ってビデオを編集し、朝、それをみんなに観せていました。僕らはサッカーでもフットサルでも相手に合わせて変えて行くのがベースなので、そういう意味ではチームはあまり変わってはいないと思います。
―決勝戦の相手、北海道釧路北陽高校のこともよく研究されていたと感じました。
そうですね、もう情報が入っていて、ピヴォが前に張っていてそこに当ててくるのと、11番の子を中心にサイドからカットインしてシュート。11番の子は両足持っているので、そこは飛び込まず距離をあけて守るというところですね。
―しかし、展開としては先にやられました。
はい、ゲームの入りがかなり悪くて、マークを外して2失点してしまいました。ですが、昨日のロンドリーナとの準決勝でも、失点してから前半で4点取れたので、いくらでもひっくり返せるとは思っていました。
―今年は3年生だけのフットサルチームだったということで、また1からの活動になりますね。来年度も3年生のみでフットサルチームを起ち上げる予定なのでしょうか?
いえ、今まで3年生だけだったので今年もそうなったというだけで、今後は下級生を入れていくのもいいかなと思っています。フットサルをやってからサッカーをやるとかなり上手くなっていて、プレッシャーを感じなくなるようなので、下級生であまり上手くない選手たちにフットサルをやらせるのはいいでしょうし、3年生になった時にフットサルかサッカーかを選びやすくなると思います。
―今後のフットサルへの取り組みについて聞かせてください。
僕が目指していたものの一つとして、フットサルを高校サッカーのチームがするというモデルタイプの一つにできればいいなということがあるんです。うちではフットサル的な動きが苦手な選手たちに無理矢理フットサルをさせるのではなくて、そういう子たちにはサッカーっぽいドリブルベースにした攻撃、3-1にして前に当てて落としてもらってシュートという形を作る。一方で、テクニック大好きの小さい選手たちもいるので、その2チームに分けてそれぞれ練習して、それぞれの特徴を作ってやるというやり方でやっていました。それをまねしてもらうとか、フットサルにもっと興味を持ってもらうとか、作陽でいけるんだったら僕らもいけるんじゃないかとか思ってもらえれば、フットサルの今後の発展に繋がるのではないかと思います。あとは、今年優勝できたのはノーマークという要因が大きかったと思うので、来年また勝って「さすが作陽」と言われるようにならないといけないと思います。
岡山県作陽高等学校 11番 眞中佑斗選手
―大会を振り返っての感想を教えてください。
チームが立ち上がった時からこの大会で優勝することだけを目指して頑張ってきたので、目標を達成できて本当に嬉しいです。
―フットサルチームとしてはいつ頃から練習を始めたのでしょうか?
[写真]=本田好伸
2月に1つ上の学年のフットサル大会があったんですが、中国大会で負けてしまったんです。その悔しさもあって、5月にインターハイの県予選を戦っている選手たちがいる中で、フットサルチームを起ち上げてこれまで頑張ってきました。
―サッカーではなくフットサルチームでやるということはすぐに受け入れられましたか?
目標を今大会の優勝と決めていて、そこに向けて自分たちで追い込んでこれたので、日々充実していました。
―眞中選手のプレーには、フットサル特有のフェイントも観られましたが。
プロの試合等を観て自分なりに研究したのと、練習でも「仕掛けろ、仕掛けろ」と監督から言われていたので、その積み重ねが試合でも活かされたかなと思います。
―今大会を通して、ご自身のパフォーマンスはどうでしたか?
リーグ戦で得点できなくて本当に苦しかったんですけど、決勝戦では、厳しい中で「自分が決める」ということを意識してやりました。その結果、決勝点をあげてチームに貢献することが出来て本当に嬉しいです。
―作陽高校は試合ごとに強くなって、まとまってきた印象を受けました。
三好監督がよく研究してくれて、チームでどう戦うか毎回毎回しっかり整理できましたし、いい形でモチベーションを上げて試合に臨めたので、1戦1戦勝ち上がれたと思います。
―大会中、「優勝できる」という確信は持っていましたか?
グループステージから強豪が集まっていましたし、準々決勝、準決勝も厳しい試合だったので、1戦1戦、目の前の試合を勝ち切るということだけ考えていました。優勝できるというのは最後の笛が鳴るまで全然考えていなかったです。
―今後についてはどう考えていますか?
フットサルで経験したことを活かして次のサッカーにも繋げていきたいです。
全試合結果はコチラ
優勝、おめでとうございます!!