昨年度、東京都大学フットサルリーグ1部で見事優勝した多摩大学フットサル部。創部4年目を迎え、着実に力をつけてきている。そのフットサル部の監督を務めるのが福角有紘氏だ。福角監督は現役時代にバルドラール浦安の選手としてFリーグでプレーした後、指導者としての道を歩み出した。インタビューでは、福角監督が多摩大学の監督に就任した経緯や、指導者として心がけていること、試みなどをうかがい、福角監督が目指す指導者像、フットサル像に迫った。
― 本日はよろしくお願い致します。早速ですが、まずは福角監督が指導者になられたきっかけを教えてください。
最初は、横浜にある中村俊輔選手プロデュースのフットサルコート(ShunsukePark)で受付をしていたんですよ。その時に、そこのサッカースクールのコーチもやらせてもらって、すごく楽しかったんですよね。選手の時から監督っていうのは視野に入れてはいたんですが、実際に指導者になろうと思ったきっかけは、そのサッカースクールで子どもたちとの触れ合ったことですかね。
― 2012年に多摩大学フットサル部の発足と同時に監督に就任されたわけですが、それはどのような経緯だったのでしょうか?
多摩大フットサル部の話を受けた時は、僕は横浜から出身地の関西に戻っていたんです。横浜で子どもたちと触れ合ったことがきっかけで、子どもたちのフットサルスクールを作りたくなって、実際に作って走り始めていた時なんです。その時、高校の先輩の奥大介さん(元サッカー日本代表)が多摩大目黒のサッカー部の監督をされていたんですけど、その大さんから電話があって「今度、大学にフットサル部を作る。そこに監督を置きたいから、お前やれや」というのがきっかけで。僕は関西に戻っていたので初めは無理ですとお断りしたんですが、何度もアプローチをいただきまして。「指導者として大学の年齢をやるのはキャリアの中ですごくいいことだし、どこかで誰か見ているから」と言われ、最後は「お前は指導者として絶対成功する」という決め台詞的なものもあり、先輩後輩の圧力もあり(笑)プラス、この大学のコンセプトがすごく魅力的だったのでお引き受けしました。ゼロから始めるということ、どこのだれもやったことにないことにチャレンジできるっていうことは魅力だったし、自分が育ててもらったフットサルという競技に自分は力を注ぐべきだと思ったんです。「ゼロから始めて日本一になる」という目標も惹かれた所ですね。
― ここからは多摩大学フットサル部の練習についてうかがっていきたいと思います。まずは1週間の練習スケジュールを教えて下さい。
まず月曜の朝7‐9時でフィジカルをやって、火曜日は回復日でオフ、水曜日の朝7-9はトップチームのみ。木曜は2部練で、朝7‐9時でフィジカル、夕方4時半から6時がAチーム、その後Bチームが練習します。金曜日はオフにして、土日は午前練習か試合。週2回オフ日を作っています。
― フィジカルはどなたが教えていらっしゃるんですか?
FC東京のトップやJAF千葉の育成とかでやられていたフィジカルコーチで、今フリーでコンディショニングをやっている方にお願いしています。今日は心拍を測るのを着けて、ブルートゥースを使って5人の心拍数がiPadでリアルタイムで分かるようにして練習しました。ウォーミングアップから試合中にどれくらい上がってレストした時にどうなるか。何分くらいでレストができるか、どれくらい行けば強度が上がるか、じゃあどれくらいの出場時間かっていうことが分かったりするんです。そのデータを全員にメールで送れるので、帰りの電車でも見られて、今日は上げきれてない、サボり過ぎっていうのが本人たちも分かるんですよ。自分がいくらやったつもりでも数字は嘘を付かないですから。データを見ると腑に落ちるんですよね。あとは身長、体重、体脂肪も全部データを出しています。これもフットサル界ではあまりやっていないことなんです。こういったデータをまとめて多摩大が情報発信していけば、他のチームの基準にもなって、どれくらいやればいいかっていうことが分かると思うんですよ。
― なるほど、フットサルに特化した科学的アプローチをされているんですね。
科学的根拠があれば効率的に、説得力をもってトレーニングができますから。感情論にならないようにはしたいので、科学的なアプローチもかけています。例えば、30歳くらいの方とお話した時に「自分も大学の時にそういうトレーニングをしたかったな」と思ってもらえるようなトレーニングをしたいと思っています。
― 羨ましい環境ですね。他にはどんなことを意識して練習をされているのでしょうか?
実践のリアリティーを持ちつつ、決断を自分たちでできるように、スピードの中で強度を上げてというところですね。統合的にやっています。フットサルに必要な要素は全部やるべきだと思っているので、一つのスタイルに偏らないようにしています。そして、より実践に近い中で、僕が全部決めるのではなく、チームとしてコンセプトや優先順位は共有する中で、最終的な決断はピッチの中。みんなが決める、学生が決める。成功しようが失敗しようが、その決断のチャンスを奪わないようにしています。方向性は示していますけど。
― 最後は選手の判断、決断ということですね。多摩大フットサル部が発足して4年目を迎えましたが、チームはどう成長してきたと思われますか?
3年やったのでベースができましたね。例えばよくあるのが「クワトロ、4-0のシステムをやりますって言って、ディフェンスは半分で守ります、それ以外は練習しません」となったら、結局そんなのは試合始まってハマらなかったら5分で試合が分かってしまうから、そこは変えられないといけない。それを変えるための引き出しとか知識はトレーニングの中で入れていかないといけない。僕が分かっていても選手が分かっていないと共有できないですから。同じことを4年間繰り返すと、段々分かって来るんですね。理解して、提案が始まるんです。選手と一緒にFリーグを見に行くと「監督、うちでこれやれるんじゃないですか」というような提案をしてきたりするようになりましたね。
― なるほど、選手たちのフットサルに対する理解が深まってアイデアが出るようになってきたのですね。他に、監督がチームを率いるにあたって大切しているのはどのようなことでしょうか。
やっぱり目標と目的をしっかり明確にして、より高く持つこと。プラス学生一人一人に絶対良いところがあるのでそれを僕が見つけて引き出してそれを生かせるようにすること。あとは、ボール蹴るところ以外のオフ・ザ・ピッチというところはすごく言っていますね。時間とか挨拶とか。社会に出て基礎となる部分はしっかりしたいなと思っているので、「オフ・ザ・ピッチ日本一」というコンセプトを掲げて、厳しく言っていますね。具体的に言うと、挨拶、時間をどういうふうに大切に考えられるか、あとは身だしなみ。「お洒落であれ!」と言っているんですけど、そういうピッチ以外の部分がしっかりしてくればピッチの中でもプレーにいい影響があるのかなと思っています。
― 「目標、目的を明確に」というお話がありましたが、多摩大学フットサル部はどのような目標、目的を持って活動されているのでしょうか?
多摩大の目標は、日本一を目指して「大学日本一を取り続ける」ということで、その目的は「高い目標を持って自らの力で自らの価値を高めていき、充実した大学生活を送る」ということです。
― 福角監督の下、選手たちはその目標、目的のために情熱を持ってフットサルに取り組んでいらっしゃるんですね。ところで、多摩大学フットサル部には、国見高校、三浦学苑などサッカー強豪校出身の選手が何人もいらっしゃいますが、福角監督が特にサッカーエリートに入ってきて欲しいと思っていらっしゃる理由はどの辺りにあるのでしょうか?
単純に、サッカーのベースが高い子は巧くて強い。基礎が高いんです。それに、名門でもまれて来た子は理不尽にも耐えられるし、継続力がありますからね。厳しい環境でやっているから当たり前のラインが高いですよね。競争があって当たり前、試合に出られなくて当たり前ですから。
― 強豪サッカー部の中には、監督の言われた通りにやってきたという選手もいるかと思いますが。
確かに、いわゆるロボット化されている選手と自分で考えらえる選手がいるけれども、そこはトレーニングによって変えられると思っています。自分の考えを出していいよという環境の中で自分で決めさせていけば、変わっていく。考えてないのはその子が悪いわけじゃなくて環境の問題。大学に入ってからでも自分で考える力は十分に身に付けられると思っています。
― 環境が大事ということですね。さて、ここからは育成年代をテーマにお話をうかがいたいと思います。高校卒業後に本気でフットサルをやりたい、続けたいという場合、多摩大学のような大学の部活の他、Fリーグ、海外などいくつかの選択肢があると思いますが、何をポイントに進路を選べばよいでしょうか?
大学であれば今年から関東大学プレリーグが出来て受け皿が整いつつあるので、これからはチャレンジしたら面白いと思います。それと、一緒に勉強して、部活して、同じグループで日本一を目指す4年間というのは大学の部活でしかできませんから、そこも魅力だと思います。でも結局は、その子の目標がどこであるかがポイントだと思います。Fリーグを目指すならその下部組織がいいでしょうし、大学に入って多摩大みたいに部活としてやって就職に繋げていったりというのも一つだと思います。個人的には、その年代でしかできないことを選んでいったら面白いかなとは思いますね。その子が将来どうしたいかですけど、例えばもし海外に魅力を感じているのであればすぐ行くべきだと思います。言葉の問題もあるので早い方がいいでしょうね。(進路を選ぶ時にも)目標、目的が大事ですね。それがあれば、どこを選ぶかは自ずと出て来ますから。あとは、そこにどれくらい情熱を注げるかですね。
― 福角監督は関西で「DIEGO futsal school」を運営されていると伺いましたが。
はい、幼稚園から小学6年生までのスクールで5年目になるんですけど、そこの年代にフットサルの楽しさを知ってもらいたいなというのが一番のきっかけ、目的でやっています。そこから選手としてトップに行く子は1%かもしれないけれども、将来もしどこかの社長さんとかになったらスポンサーになってフットサル界に貢献してくれるかもしれない。子どもの頃にフットサルが好きなったら大人になってサポーターになるということもある。そういった意味でこの年代にフットサルを認知してもらうのは大事だと思ってやっています。
― 幼児や小学生の年代は、サッカーのためにフットサルも練習するというケースが多いかと思います。この年代でフットサルを経験することは、具体的にどのようにサッカーに活きてくるのでしょうか?どんな力が付くのでしょうか?
やっぱり状況判断の速さだと思います。フットサル日本代表のミゲル監督も言っていますが、フットサルはサッカーに比べて6倍の経験ができるので、テクニックだけでなく、頭の中のスピードが付くんです。15歳、18歳くらいで変わってくるのかなと思います。判断力、決断力、問題処理能力が身に付きますから。
― 現在のフットサル全体の環境についてはどう思われますか?
認知がされてきて全体的に環境がよくなってきているので、あとは指導者がどれだけ増えるかがポイントかなと思います。地域リーグでも監督がいない、プレーイングマネジャーのチームが多いですから。特に育成年代は絶対監督が必要。プレーする場所は増えてきたので、次は教えられる人、導ける人が増えてくるといいなと思います。
― 最後に、育成年代のフットサラーにメッセージをお願いします。
フットサルはまだまだ可能性があるスポーツ。日本代表のユニフォームを着られるチャンスもあるし、プロになる可能性もある。いろんな可能性が秘められていると思うので、自分で自分の人生を切り拓いていきたいのであれば、フットサルはチャレンジする価値のあるスポーツだと思います。もしフットサルが好きであれば、目標を高く持って、そこに情熱を注いでいけばいいと思います。
futsal R編集部
【多摩大学フットサル部 福角有紘監督プロフィール】
1978年、兵庫県生まれ。
<選手歴>
MAGフットサルクラブ、 プレデター浦安、 Fリーグ バルドラール浦安
<代表歴>
2000年、2004年フットサル日本代表候補
<指導歴>
プログレッソ大阪監督、 大阪府選抜監督、 U-23大阪府選抜監督
現フットサル日本女子代表コーチ
【編集後記】
今回のインタビューを通して印象的だったのは、何よりも福角監督のフットサルに対する「情熱」だ。「どういうチームならば勝てるのか」「どういったトレーニング環境が必要なのか」、チームのあり方を突き詰め、細部にまでこだわり続けていることが伝わってきた。大学でフットサル部として活動しているチームがそう多くない中で、多摩大学にはフットサルに打ち込める十分な環境が整っているのだ。高校時までにフットサルにのめりこんだ選手も、大学でサッカーからフットサルに転向する選手も、「大学日本一」になれるチャンスが多摩大学にはある。
多摩大学フットサル部 部長 川口達也選手インタビュー『大学フットサルから次のステージへ』